▼20-21時(アゲ・ツユ・トカ)


「本当にご迷惑をおかけしてすみませんでした」

「いえいえこちらこそ本当に申し訳ないです」


30分ほどのパレードが終わった頃、観客がばらけ始めた通りでは二人の男子高校生がお互いに向き合い、深々と90度に身体を折り曲げる姿勢で頭を下げていた。


「まさかウチの会長がパレードに飛び出して、お宅の馨さんを絢爛豪華な乗り物の上で踊るミッキーに向かって放り投げるとは思いもしませんで」

「ウチこそまさか投げられた馨がそのままミッキーにしがみついて写メを撮るやら躍り出すやら本当にやるとは思いもしませんで」


そこで二人は下げていた頭をガバッと上げる。
その瞳には感激からかうっすらと涙まで浮かべて。


「でも穂鷹さんが横のヤクモからネズ耳をむしり取って馨さんにぶん投げてくれてとても助かりました!」


おかげでブーメランのように飛んだカチューシャが顔面に直撃した馨は、ちょうど飛び跳ねていたというタイミングも重なり、バランスを崩して乗り物から落下した。


「それだったらこちらこそ!トカゼさんが横の聡史先輩からバッグをひったくってカイさんにぶん投げてくれてとても助かりました!」


おかげで馨に続きミッキーの元へよじ登ろうとしていたカイは、登りきる直前で頭にバッグの直撃を受け乗り物から落下した。


「俺、穂鷹さんがいてくれて本当に良かった……っ!」

「俺だってトカゼさんがいてくれて本当に良かった……っ!」


そして二人は感動の熱い抱擁を交わしたのだった。


トカゼはモール前で遭遇した少年がカイを笑い飛ばしたあと、彼の後ろにいた二人が常識人であることを期待したのだが──会長と少年、馨が突如意気投合し名乗り合い肩を組み始めた時点で二人の内一人はさりげなく消えていた。

つまりバックレられてしまったのだ。
それはなんと恐るべき早技だろうかと感心してしまうほどのナチュラルさで。

ちなみに、レキは当然ながらそんな事態が起きてもマイペースにお土産を買いに行ってしまったので、もう放っておくこととした。

それからがまさに悲劇で。

残された聡史と名乗る青年と共に二人をなだめようとするものの、同族との遭遇にすっかりテンションがぶち抜けたカイと馨はまるで嵐のようだった。
もはやあれは人間というより野生動物に近い。

しかも何度電話をしてもツユキもアゲハも気付いてくれなかったため、ヤクモに助けを求めることも出来なかった。

そして迎えたパレードは、頭を下げ合う二人が上で述べた通りの騒動だ。

カイを止めた自分と同じく馨を止めてくれた、彼の従兄弟という穂鷹。
彼と目が合った瞬間、トカゼこそまるで恋でもしたかのように電流が走った。

──俺と同じ種類の人間だ!


「あとで係員さんにも謝りに行きましょう」

「そうですね。あ、あとトカゼさんの住所教えてください。後日侘びの品でも渡しに行きます」

「それなら俺だって!」

「あとメアド交換も!」

「喜んでぇ!」


いまだがっしりと抱き合う二人の後ろでは、馨の頬を両脇からぐいーっと引っ張り説教を続ける聡史と、カイの胸ぐらを掴み往復ビンタをくらわせるヤクモの姿。
なかなか面白い光景だ。

しかしヤクモに関しては、パレードで人様に迷惑をかけたからというよりは、彼が楽しみにしていたミッキーの邪魔をされたことに対する怒りの方が大きいらしい。
馬鹿だのアホくたばれだのミッキーに謝れなどといった暴言が、尽きることなく聞こえてくる。


「ほら俐音見て。あれが危ない関係ってやつだよ」


目の前で繰り広げられる光景を見ながら、にこにこと朗らかな笑顔を浮かべる青年、壱都は抱き合う男二人を指して横の俐音に話しかける。

どうやらツユキが思っていた通り、俐音という子は男の子ではなくボーイッシュな雰囲気の女の子らしい。


「穂鷹がツユキちゃんにフられたからって、ついに男に走った──っ!」

「あいつ守備範囲広すぎだろ」


同じように話へノッていく俐音と、カイと馨から逃れこちらと合流していた響。



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