▼19-20時(俐音・穂鷹・壱都)

一日の締めくくりであるパレードが始まる直前ともなれば、その混雑たるや想像を絶するものであった。
通路という通路は押し合いへし合い、人の合間を潜り抜ける事さえも困難極まりない。
そんな中をするりするりと器用に縫って行く人がいた。

何故か誰一人ともぶつからずに前進してゆく壱都の背中を俐音はただ追いかけていた。
腕を強く掴まれており彼と逸れる事はないが。


「い、いち、と、先輩!」


縺れそうになる足を必死に前へと動かしながら俐音は途切れがちに声を出した。


「穂鷹がいない!」


壱都が俐音を引っ張って、更に俐音が手を引いていたはずの穂鷹の手の感覚が何時の間にか消えていたのだ。
何とか事実を伝えた俐音は壱都の反応を待った。

待つこと数秒

ちらりと後ろを見やった壱都は、何のリアクションもなくまた前を向いた。
勿論足を止めもしない。


見捨てた!!


俐音は目を見張った。

判断が早すぎるようにも思えたが、この人混みの中では確かに戻って探す事も出来ない。

穂鷹だけではない。
この様子では別行動をしていた響達と合流どころでは無さそうだ。

そしてこんな中でパレードなど見られるのだろうかと心配になってきた。
背伸びをしてどうこうなる次元の問題じゃない。

ディズニーのナイトパレードと言えばその為だけに入園する人もいるくらい盛大で、テレビCM等で何となくすごいという事を俐音も知っているのだが、やはりどこか舐めていた。


「ていうか、壱都せんぱ、何処まで……」


闇雲に進んでいるのではなく、明確な目的地があるとしか思えない足取りだ。

この質問に漸く速度を緩めた壱都はクイと俐音を引っ張った。

前のめりになった次の瞬間、少しだけ人の密集度がましな空間に出た。


「お疲れ様」


肩で息をする俐音を労う。
どうやら壱都が目指していた場所に着いたらしい。

そこはパレードがよく見える前列部だった。にも関わらず他の処よりも空いている。
何故と考えるより早く声を掛けられて思考が中断された。


「良かった俐音ちゃん!」

「あ、穂鷹!……と響?」


別行動を取っていて帰りまでもう再開は無理だと思っていたはずの響と、先ほど逸れたばかりの穂鷹も僅かだが広い場に出てほっと息を吐いた。


「向こうの噴水のところで響と会ったんだー、てか俐音ちゃんと手離れたときはどうしようかと思ったよもうマジですぐ見つかって良かった!」


穂鷹は安心しきった顔をして俐音を体ごと抱き込んだ。
心配や焦りの度合いを示すようなその力の強さに俐音は苦しげに呻いたが、それも気にならないのか一向に止めない。


「ほだか……ぐるし」

「落ち着け」


それこそ落ち着きを払った声音で言った響が素早く俐音から穂鷹を引き剥がすと、彼の腸を抉るような鋭い一発をお見舞いした。


「あ、相変わらずいい腕してる……」

「で?何で響一人でいたの?」


膝をついた穂鷹をそのままに、響と俐音は会話をし始めた。
壱都は放って置かれている穂鷹を見て一頻り笑っている。



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