▼12-13時(アゲ・ツユ・トカ)
有名な三大マウンテンの一つであり、アメリカ西部、ウエスタンな雰囲気漂うビッグサンダーマウンテン。
そこから延びる列の中にアゲハを始めとする二年生トリオは並んでいた。
入園してからの時間をほぼこの行列内で過ごし、もうまもなくその努力が報われるというのにツユキの表情はずっと不機嫌なままだった。
「ツユキ、本当にゴメン。ゴメンって。ね?」
「……男のくせに情けない」
「はいゴメンなさいまさしくその通りです」
前を見据えたまま吐き捨てられた痛烈な一撃を受け、トカゼは三人の真ん中に立つアゲハに泣きついた。
そんな友人の背中をアゲハはポンポンと叩いて励まし、右隣で頬を膨らますツユキの頭も撫でてやる。
まるで保父さんのようなその光景に、後ろに並んでいた客からは笑いがもれた。
「あれは仕方ないだろう。俺だってもう花見の場所取りはゴメンだし、二度としたくない」
「分かってるよ!分かってるけど……っ、本当ならスプラッシュのファストパス取ってから悠々とここに並んでいるはずだったのに!」
「うんマジでゴメン……」
「まぁ俺だったら断れただろうけどな」
「ほらーっ、だよね!」
「ひいっ、アゲハ裏切らないで!俺の味方でいて!」
彼らは夢の国へ足を踏み入れた早々、カイからスプラッシュマウンテンのファストパスをよこせと電話を受け、せっかく取ったパスを取られてしまったのだ。
すると、落ち込む二人に挟まれたアゲハが思い出したように口を開く。
「でも、俺たちが行ったときにパスを取ってた三人組、あれも凄かったな」
「そうそう!同じくらいの男子でしょ!?」
「あの眼鏡の人が可哀相な!?」
続くようにツユキとトカゼも声をあげる。
実は三人がファストパスを取りにスプラッシュマウンテンへ辿り着いた頃、ちょうど同じ年頃の男の子が三人、パスを発券していた。
「なんかさ、一人凄いのがいたじゃん?なんていうか……」
「某会長と同じような匂いをした、か?」
トカゼが言わんとすることを察したアゲハが続けば、ツユキまでもが大きく頷いた。
「凄く元気が良さそうだったよね」
「まさに飛び抜けてね。むしろ怖い」
そうとしか表現出来ないような、騒がしい三人組がいたのだ。
「まぁ、でもカイとは入れ違いになって良かったじゃないか」
「本当だよもー。絶対に会長大喜びで絡むもん──ってそうだツユキ携帯貸して!」
「え?なんで?」
何か重大なことに気付いたように、トカゼがツユキに向かって手を伸ばした。
突然のことに目を丸くしながらもツユキはカゴバッグから携帯を取り出す。
「ヤクモに警報出しとく!『会長に似たテンションの奴が居るから絶対遭遇させるな!』って!あの人俺にメルアド教えてくれないから携帯貸して!」
「なるほど。そう言っておけばあいつは全力で阻止しそうだな。トカゼナイス」
「っていうか、ヤクモのアド知らないの?」
「トカゼどころか俺だって知らないけど」
「ツユキが見てるヤクモが全てじゃないよ!あの子は恐ろしくしたたかな子だよ!」
過去に『教えてくれ』と言った際には、それはそれは見下したように鼻で笑われ『なんで?』と一蹴されたものだ。
ツユキの携帯を借りてメールを送ってみれば、案の定返事は速攻で返ってきた。
画面を見ながらツユキが内容を読み上げる。
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