▼OP(gray town)
某日。
見事な晴天。
誰しもが憧れる夢の国、某ネズミマスコットが踊り回るファンタジーワールド。
その入口には六人の学生が佇んでいた。
早々に荷物チェックを済ませた彼らの眼前には、ファンタジックでお洒落なアーケードがドンとそびえる。
「おーし、揃ってんなー。じゃあ後はグループ行動集合は閉園時間にまたここで!うおおおおディスニー!」
ぐるりと全員の顔を見渡してから、生徒会長であるカイが取り仕切るように本日の予定を叫ぶ。
まさに文字通り、拳を掲げて彼は叫んだ。
カイのテンションはいつも以上に絶好調らしい。
「おおおディズニーっ!」
すると同じくテンション高々にツユキまでもが拳を上げる。
「……最近ツユキのテンションがカイに似てきてなんていうかまぁうん……」
「複雑だよね。なんでこんなに息合うのこの二人」
熱い二人の後ろでは早くも肩を落とす男子生徒が二人。
アゲハとトカゼは、すでに元気溌剌といった様子で意味なく『ディズニー!』と叫びハイタッチを交わす生徒会長と友人の姿に不安を募らせた。
特にトカゼに至っては『何も問題を起こしませんように!』と入園前から胃をさすり出す始末だ。
そんな四人を無視して、それまでさらに後方でレキとパンフレットを睨みつけていたヤクモは、早速とばかりにツユキの元へ歩み寄りその肩に手を置く。
「なぁツユキ、そのグループ分けだけどさ、俺とっ──おおおぉぉぉうげぇっ!」
少女を前にして少しだけ緊張した声色は、突如絞め殺されるような叫び声に変わる。
「おっしゃあっ!行くぞヤクモ!マウンテン!」
「え──っは!?」
いきなりラリアットをかけられたヤクモの首には、しっかりと回されたカイの腕。
「なんで俺があんたと……っ!」
「俺たちマブダチじゃねぇの!ほらレキ置いてっちゃうぞー!」
「……あ?あぁ」
「だからその輪にだけは俺を入れんなって言──っ」
もがくヤクモと、そんなことには構わずズンズンと歩を進めるカイ。
そしてそんなカイに呼ばれ、今までの会話を全く聞いていなかっただろうレキがパンフレットから顔を上げることなくアーケードを潜って行った。
「そうだヤクモ、パレード見えなかったら肩車してやっから言えよ!?」
「──……あんた絶対スプラッシュの頂上から叩き落とす覚えてろ!」
どうやら三年生は三年生同士で回るつもりらしい。
「あぁヤクモ……可哀想に……」
残されたトカゼが同情を交え呟くと、横のアゲハも静かに頷く。
「でも、カイがあっちのグループに行って良かったな」
しみじみと彼らを見送りながら息を吐き出した。
「うん。絶っっ対一緒に回りたくないよね」
「あれ?ねぇ、今わたしヤクモに呼ばれたような気がしたんだけど……」
目の前のアーケードに気を取られていたツユキがようやく気付くが、そんな彼女にトカゼはひらひらと手を振ってみせる。
「あぁ、多分大丈夫だよ。もはや気にしなくて大丈夫だよ」
「……とりあえず行くか」
ようやくアゲハが切り出せば、ツユキの瞳もぱあっと輝いた。
「行こう行こう!三大マウンテン制覇してやるんだ!知ってる?スプラッシュは落ちる途中で写真撮ってもらえるんだって!ミッキーとも写真撮るよ握手するよ!それからカリブの──」
「ちょちょちょっ、ツユキ落ち着いて大丈夫だよディズニーは逃げないよ!?今日は近年まれにみる本気度だね!」
「……俺にはツユキが言っていることが一つも理解できなかったけど、え?ディズニーって結局ただの遊園地だろう?」
明らかに『ただみんなに付いてきました』というテンションのアゲハが首を傾げれば、ツユキは信じられないとでも言うように眉を上げる。
「違うよアゲハ、ここは夢の国だよ!」
「いや、だから……おいトカゼ、ツユキは頭でも……」
「打ってないよ!?アゲハこそ何言ってんのここは夢の国だよ!行けば分かるって夢の国だよ!」
トカゼまでも瞳を輝かせ断言するが、やはりアゲハには二人の言っていることがいまいちピンとこないらしい。
「……とりあえず、まあ、行くか」
「おおおディズニーっ!」
「ツユキ走ったら危ないよ!とか言って俺も走っちゃうけどねーっ!」
三年生トリオに続いて、やはり首を傾げたままのアゲハを最後尾にツユキたち二年生もアーケードをくぐり、夢の国へ足を踏み入れる。
時刻は9時半を回った、そんな一日の始まり。
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