▼13-14時(馨・響・聡史)
「ん?」
昼食を無事食べ終え、次のアトラクションに乗るべく移動中の馨は、急に後ろを振り返った。
「どうした?」
「や、何かあっちで今すごい楽しげな事が起こってるような気配が……」
言われて聡史は同じ方向を目を細めて確かめてみたが、人がごった返しているだけ。
「パレードでもやってんじゃねぇの」
どうでも良さそうに響が言う。
暑さと人の多さにうんざりしているようだ。
「そういうんじゃなくって個人で騒いでるような、物凄いはっちゃけてる人がいるような」
「お前どんなセンサー持ってんだよ」
頭につけているまん丸とした黒い耳の型をしたカチューシャが、まるで本物のように遠の音までキャッチしているんじゃないかと思うくらいだ。
「馨が反応するんだ、とんでもない奴なんだろ」
人災だとでも言わんばかりの聡史は露骨に眉を顰めた。
見ず知らずの、しかも本当にいるのかどうかも分からない人の事を酷い貶しようだが、これは仕方のない話だ。
何故なら聡史の隣には「混ぜるな危険」と言っても過言ではない馨がいるのだから。
彼とはち合わせさせてしまうのが嫌なのだ。
要するにこれ以上馨のテンションを上昇させたくないという、ただそれだけ。
「あ!?」
「今度は何だ」
さっさと次へ移動したいのに、事ある毎に立ち止まる馨に響は苛立っていた。
「見て見て回転木馬!」
そこには遊園地の定番、メリーゴーランドがあった。
ディズニーのイメージとは一見結びつかないが、ここもかなりの列が出来ている。
「絶対にあれ木で出来てないと思うんだぁ」
「そうだったとしてもどうでもいい」
ダルそうに腰に手を当てた響に、馨は首を傾げた。
「しんどいの?歩くの疲れた?ちょっと待ってて、いい物持ってくるから」
たっと駆け出した馨。聡史は一抹の不安を感じるも止める間もなかった。
意外にも馨はすぐ近くで失速した。そう、今し方話題に上ったばかりのメリーゴーランドの前だ。
馨が止まった場所にはメリーゴーランド待ちの小さな子どもが乗っていた乳母車がずらずらと並べられている。
何十台と綺麗に整理されて置かれているうちの一つに手を掛けると、馨は躊躇いなくブレーキを外した。
「響!これで移動するといいよ!僕が後ろから押してあげる楽チーン」
「乗るかこんな小さいもん!」
「それ以前に人様のを勝手に持ってくるな返して来なさい!」
響に重ねるように聡史が更にまともなツッコミを入れる。
「え、でもご自由にお使いくださいって……」
「都合のいい幻覚を見るな書いてないから!それディズニーのじゃなくてお客さんの私物!」
「見て見て親切にも扇風機ついてるよー、ふぁさー」
「聞けって言ってるだろ!うわ、つめたっ!」
乳母車に乗せられていた手持ちの扇風機を取り出した。
馨は楽しそうに霧吹きにもなるそれを聡史に照射する。
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