▼ED(gray town)

「はい10時になるぞー!悲しいけれどお帰りの時間だぞー揃ってっかー!?」


閉園時間の22時直前。
今朝グループごとに別れたアーケード前でカイは腰に手を当て周囲を見渡すが、直後考えるように顎へ手を添える。


「……レキがいなくね?」

「気付くの遅くね?」


同じく顎に手を添えてみせたヤクモが、笑顔ながらも眉間に皺を寄せて答えた。


「まだ土産を買ってるのか?あいつは」

「そういえばパレードのときもいなかったよね?」

「いやいやいや、っていうかお前らこれなに!?」


顔を見合わせるアゲハとツユキの間にトカゼが割って入る。
その頭にはよく見る海賊らしいドクロ模様が貼られた黒い帽子が乗り、その腰のベルトにはよく見る海賊らしい曲線を描く短剣が収まっていた。


「なんで再会したとたんこんな格好させられんの!?」


トカゼはパレードをきっかけとして知り合った男子高校生、穂鷹と別れ、友人二人と合流した瞬間問答無用で帽子をかぶせられて短剣をベルトに差されたのだ。


「こんなとは失礼だな。ジャック船長の帽子と短剣だぞ」

「だったらアゲハが着ければいいじゃん!あんなに欲しい欲しい言ってたんだか──」

「トカゼの人でなし!」

「ツユキさん!?」


突如言葉を遮られただけでなく、トカゼは背中をバチンとツユキに叩かれてしまう。
意味が分からないというように二人を見れば、なにやら怒っているらしい。


「……お、俺なにかした?」

「せっかくアゲハがその欲しかった帽子を是非トカゼにって──っ」

「いいんだよツユキ。トカゼ、気にするな。これは俺とツユキから友達としてのプレゼントだから。俺たちがただトカゼにあげたかっただけだから、捨てたって構わない」

「え?……え?」

「私とアゲハはこんなにもトカゼを想っているのに……最後は新しい友達と一緒に回れて良かったね」

「さぞ楽しかっただろうな」


さすがにここまでトゲトゲネチネチと言われてしまえば、いい加減トカゼも気が付いた。


「あ、もしかして俺が最後ほーちゃんについてったの怒ってんの?」

「べっつにぃー」

「数年来の相手よりも一瞬の出会いを取ったことなんて何ひとつ気にしていない」


揃って頬を膨らませ、あからさますぎるくらいにイジける二人を前に、トカゼの胸にはなんとも言えない感動が押し寄せる。


「おっ、お前ら……っ!可愛い!」


その感動を表現するかのように思いっきり抱きついてやった。


「アゲハもツユキも大事な親友に決まってるじゃん!俺はお前らが大好きだーっ!」


もはや鼻声で叫んだが、対して抱きしめられた二人はニヤリと。


「なら、そのプレゼント貰ってくれるよね?」

「もちろん!」

「優しいトカゼはそれをしっかり身につけてくれるよな?」

「もちろん!」

「帰りの電車もジャック船長と一緒なんて嬉しいねアゲハ!」

「もち……え?電車も?え!?」

「家までその格好で帰ってくれるなんて、本当にトカゼは良い奴だな」


頭に疑問符を浮かべたままトカゼが硬直したところで、最後の一人がようやくアーケードを抜けてくる。


「レキ遅ぇーよー!帰りましょーう!」

「予想通りというかなんというか……その荷物ふざけてんのか!」


マイペースに買い物を楽しんだらしい青年の両手は、溢れんばかりの戦利品で塞がっていた。
ヤクモが『一体何を買ったんだ』と、レキが手に提げていた可愛らしいキャラクターデザインの土産袋を覗けば、袋のデザインを裏切らないそれは可愛らしいぬいぐるみやらキャラクターグッズやらお菓子やら。



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