▼18-19時(カイ・ヤク・レキ)

18時をとうにすぎると園内は今まで以上に慌ただしく行き交う人々が増えてくる。


そんな人々と同じく周囲を見渡し始めたヤクモの姿に、レキとカイは売店で買ったスポーツドリンクを男らしく一気飲みしながら揃って首を傾げた。
彼らの付けているネズ耳にのみ注目すればそれはとても可愛らしい仕草だが、相変わらずそれらを下の強面が全てぶち壊している。


「今日のヤクモってマジで落ち着きねぇのな。テンション上がんのも分かるけど落ち着けよテメーいくつだよ」

「な」

「誰のせいだ誰の!あんたらそれ以上ふざけたこと言いやがったらウエスタンランドの川に蹴り落とすから黙ってろ」


むしろ彼はテンションを上げたくてもいまだ上がらないというのに。
その原因ともいえる人物二人になだめられても落ち着くどころか血圧が上がる一方だ。

だからこそこの、最後の山場だけはなんとしてもベストポジションを取りたいとヤクモは内心意気込む。


「なんだよ、なんかあんのか?」

「……そういえば通路に座り込んでる奴が増えてきたな」


清掃員へ空になったペットボトルを投げ渡しながら、ヤクモの後ろについて歩いていたレキとカイが再び首を傾げる。
園内の通路脇ではなにやら場所取りのように座っている人が目立ち始めていた。

そんな二人をヤクモは信じられないといった顔で振り返る。


「それ本気で言ってんの?これからが目玉でしょうが」


バーン!と二人の目の前に、書き込みでぎっしり埋まった副会長持参のパンフレットを広げてみせた。


「ここ!19時半からほら何て書いてある!?読め!」

「……エー…レクトリカル?パレード?」

「……なにその変なイントネーション」


ヤクモが指さす箇所をなんとも微妙なアクセントで読み上げるレキに眉を寄せながらも、その瞳はやる気に満ちていく。


「絶っ対に俺はこの目玉のパレードを最前列で見る!というわけで場所取りは一時間前からが基本だ!」

「なんだそれで人が座り込んでんのか」

「ってか一時間前ってマジかよ。俺無理待てない。乗り物乗るだけですでに十分待ったじゃんよーねぇヤクモー」

「そう言うと思ったよこのフリーダム。だがしかし俺は絶対に見るん、だ!ミッキー見て帰るん、だ!」

「……もはや意地だなお前」


呆れたようなレキの言う通り、もはや意地としか思えないヤクモは見渡しの良いカーブを見つけ早速陣取り始める。
本当に一時間前から最前列のベストポジションを死守するつもりらしい。


「あ、なぁなぁ、つーことはさ、ヤクモしばらくここにいんだろ?場所取っててくれんだろ?」

「は?あんたらのためじゃねぇし。俺は己とミッキーのためにこの場所を死守します」

「その間に俺もっと土産買ってくる!」

「あ、俺も」

「ちょっと無視?俺無視なの?そしてレキはそれ以上何買うんだすでにおかしいだろ色々と!」


耐えきれずにヤクモはミニーの耳を付け、可愛らしいポップコーンケースを肩からぶら下げたレキを指さしてツッこんだ。
しかし当の青年は『何を言うのか』と言わんばかりのキョトン顔。


「まだまだこれからだろ。全然足りない」

「……俺ユヅキじゃなくて本当に良かったと思った。今」


きっとアゲハも弟へ大量のお土産を買って帰るだろうから、今夜はディズニーグッズで埋もれることになるだろう少年に少しだけ同情する。


「……あ?お前がユヅキとか?なんだそれ笑えねぇし気持ちが悪い」

「あぁ、怒るところそこなんだ。そして勝手に想像すんなこっちこそ気持ちが悪い」


どうやらユヅキのような性格になったヤクモを想像したレキが、不快感をあらわにする。
ヤクモが眉間に皺を刻んだと同時に彼ら三人の背後から騒がしい声がした。


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