▼14-15時(カイ・ヤク・レキ)
「いやー、楽しかったな!やべぇ超楽しーっ!ひゃっほーぅ!」
「本っ当馬鹿かあんたは!いや、馬鹿なんだよなそうだこいつ馬鹿だった!」
「乗り物から飛び降りるのはさすがに危ないだろ」
ネズ耳を付けた男子高校生三人は喜・怒・無という三者三様のテンションで会話を交わしながら歩を進めていた。
その異様な盛り上がりは周りの人々が道をあけてしまうほど。
彼らは入園早々後輩から譲ってもらった──もといカツアゲしたファストパスと自分たちで取ったパスでスプラッシュマウンテンを満喫してきた帰りだった。
「最初に本気で突き落としてやれば良かったこの馬鹿を……っ!」
一回目に乗った際はヤクモが当初の宣言通り落下直前でカイを突き落とそうと揉め、二回目に乗った際は落下の感覚に興奮したらしいカイが自ら飛び降りようとしてヤクモを足蹴にしたため喧嘩になり、最終的には二人の後ろに座っていたレキに『鬱陶しい』と髪を鷲掴まれお互いの頭同士をガツンとクラッシュさせられたのだ。
スプラッシュマウンテンには落下時の映像を記念写真として撮影してくれるサービスがあるため、おかげで降車場を抜けた先、写真が映し出されるモニター前広場は賑やかなことになってしまった。
青筋の浮いた顔で殴り合っている映像やら、頭をクラッシュしている映像やらが映し出されればそれはちょっとした騒ぎにもなるだろう。
しかもその男共が三人揃って頭に可愛いネズ耳まで付けているときたものだ。
ある意味なんというファンタジー映像だろうか。
仕舞いには揃って係員から注意を受けてしまった。
夢の国というコンセプトを徹底し、それを売りにしている娯楽施設で呼び出され注意を受けるなんてよっぽどにもほどがある。
効率よく回りたいと散々言っていたヤクモにとっては不本意甚だしい事態だ。
「お前ら二人ともはしゃぎ過ぎだろ」
加えてレキからカイと同列に扱われ、ヤクモの怒りは上昇するばかり。
「だから俺はちっともはしゃげてないしその台詞はレキにだけは言われたくないし、あんた自分の姿見てから物を言え!」
ビシーッと後ろを振り返り、ヤクモがレキを指さした。
そこにはミニーちゃんのリボンが付いたネズ耳に加え、いつの間にやら肩から可愛いプラスチックのポップコーン入れまでぶら下げている強面の男子高校生。
その中には夢の国名物のポップコーンが山盛りに詰まっている。
どうやらキャラメル味を買ったようで、甘ったるい匂いが周囲に漂った。
「レキってばよくもまぁそういうの見つけてくんのな。超カッケーじゃん俺も買っちゃおっかなー」
「あっちにあった」
「マージで!?」
カイが示された方向へダッシュしようとしたと同時に、ヤクモがさせるかとばかりにその襟首を掴む。
「だぁから勝手にどっか行くんじゃねぇっつってんだろがっ!」
「……なんか今日のヤクモ機嫌悪くねぇ?」
「腹でも減ったのか?ほら食え」
ポップコーンを握りしめ差しだされたレキの手を思いっきり振り払う。
「食うか!ってかそもそもあんたは甘いもん嫌いなくせになに買ってんだよ!」
「だからユヅキへのおみや──」
「ここで『だから』って言葉もおかしいだろってかツッコミきれねー……っ」
ぐったりするヤクモを尻目に、払われたポップコーンはレキの手からカイの口へひょいひょいと消えていった。
そして会長は周囲を見渡し次の乗り物を物色する。
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