▼ED(adiantam)

園内は煌煌と明かりがつけられていたから気にならなかったせいで、外に出た途端に暗さが際立つ。
ああ夜なのだと今更ながらに実感した。

閉園間際まで夢の国を満喫した俐音達は若干の疲れを見せながらも軽快な足取りで駅へと向かっていたのだが。


「どこ行くんですか緒方先輩」


一人だけ間逆の方向へと進み出した馨の背に俐音が投げかける。


「駅だけど?モノレールの」

「モノレール乗らないだろ!」


放っておけば当然のようにモノレールに乗ってしまいそうな馨の襟首をむんずと掴んで止めたのは小暮だった。


「えー乗ろうよー、夢の国ぐるっと一周するんだよ?中も全部ネズミ仕様になってるんだよ、歩くより舞浜駅着くのに時間かかるんだから!」

「さぁー早く帰ろうねぇー歩いて!今何時だと思ってんの」


もう夜の十時をとうに過ぎている。
渋る馨の背を穂鷹が押して電車の駅側へと引き摺った。


「そうですよ、さっさと帰りましょうよ。あーもう穂鷹邪魔退いて」


俐音はそう言って前にいた穂鷹の足を蹴り付けた。
痛がる穂鷹を冷ややかに睨んでくるが、何故彼女がこんなにも不機嫌になっているのか解らない。


「つか何で穂鷹いんの?」

「ええぇ!?いやいやいますよ?むしろどうしてオレがいちゃいけないの?」

「だって穂鷹はあのトカゼって奴が好きなんだろ?あっちと一緒に帰りたかったんじゃないの」

「壱都先輩ぃっ!!」


突然意味の解らない事を口走り始めた俐音ではなく、穂鷹は後ろの方を歩いていた壱都を振り返って見た。
焦りが前面に押し出されている穂鷹とは違い、壱都は「何?」とにこやかに笑っている。


「先輩でしょ!俐音ちゃんにとんでもないデマ吹き込んだの壱都先輩しかいないでしょ!!」

「人聞きが悪い、俺は俐音が穂鷹とあの子の仲を疑ってたから答えをあげただけだよ」

「はいそれ元凶!元凶出ましたー」


どんな言い回しをしたのか知らないが、俐音は壱都のせいで完全にあらぬ勘違いをしてしまっている。
現に刺々しい視線を送ってきて居た堪れない。


「俐音ちゃん違うから、壱都先輩の言う事まともに聞いちゃダメ」

「何だよじゃあ嘘だってのか、トカゼくんといた時が今日一番楽しそうだったじゃないか。私と一緒に周ってた時よりずっと!」

「え」


この子は何を言っているんだろう。
咄嗟に反応出来なかった。

だが徐々に言葉の意味が頭の中に入ってくると同時に顔がにやけてくる。

緩む顔を慌てて片手で隠した。


「もしかして俐音ちゃんやきもち、焼いてんの?もしかしてオレらって両おも――」

「誰よオレの心ん中忠実に再現してる人!?」


背後から普通に喋るのと同じくらいの音量で自分の心の声が聞こえきた。
振り返るとすぐそこに片手を口元に添えている馨が。


「だってほーちゃん分かり易いんだもんー」

「分かっても言わないで。分かってない子いるから!」

「大丈夫だよ、俐音の耳はちゃんと塞いでるから」


そこは抜かりなく壱都が俐音の聴覚を遮断していた。
俐音は何が起こっているのかと目をキョロキョロさせている。


「そっちは聞こえてて欲しかったような……」


穂鷹の気持ちも把握した上での判断だと言うのは尋ねるまでもなかった。

そんな事をやっているうちに、外したスティッチの耳をどう処分したものかと判断にあぐねて遅れて歩いていた響が追い付いて、穂鷹を抜かす際に何も言わず鼻で笑ったのだった。


「響のバカァ!嫌いになってやるんだから!」


穂鷹は女の子みたいな捨て台詞を吐いて一人走って駅まで行ってしまった。



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