▼17-18時(馨・聡史・響)

多くの寄り道の末、三大マウンテンを制覇した馨達は今度は休憩出来る場所を求めてさ迷っていた。

休日という事もあり、めぼしい軽食店はどこも満席状態だ。


「ねぇあれ何?」


どこかないかとキョロキョロする馨の目に飛び込んできたのは、売店に並べられていた商品だった。


「これって普通のテディベアじゃないの?ミッキーのペット?」


ほら。手に取ったクマのぬいぐるみを、さっさと前を歩いていた二人に駆け寄り前に回り込んで見せる。
ベージュのテディベアは、このテーマパークの他のキャラクターとは種が異なる作りをしていて確かに浮いていた。

だがそれ以上に世にも珍しい異様なものが目の前にいる。


「お前……それはどうなの」


頭にネズ耳を付け、手にはクマのぬいぐるみを持った男子高校生。
馨だった。

似合わない訳ではないのだが見たくはない。こんな格好はせいぜいが俐音で留めてもらいたいものだ。

あからさまに引きまくっている響と聡史だが、馨は気にせずぬいぐるみを左右に揺らしながら見せ続けている。


「よく買うなそんなもん」

「え、買ってないよ?」


キョトンとしたのは馨だけではなく。
三人ともが顔を見合わせ、黙る事数十秒。


「は?」

「買わないよ、買ってもリンリンにあげるしかないじゃん」


要らないよ。
ネズ耳のカチューシャを購入した馨が言う。

だが響達が引っかかった点はそこではない。


「じゃあそれどっから持ってきたんだよ」


店内であるなら問題無いのだが、ここはただの通路だ。
カフェを求めて歩いていたのだから。


「あそこの店に置いてあったから持ってきた」


道の端に設けられている移動式の露店を指す。
確かにぬいぐるみや小物があり、店員は小さな子ども連れの客ににこやかに対応しているのが見える。
その店は聡史達がいる地点からだと若干の距離があった。


「返してきなさい!!」


これじゃあ持って来たじゃなくて盗ってきただろうが!

メリーゴーランドの時の二の舞だ。
人のものでも売り物でも平然と手に取ってくるほど手癖は悪くないはずなのだが、やはり日常とは違った場所に来てテンションが些か壊れ気味らしい。


「別にこのまま持って帰ろうなんて思ってないよ、ちょっと説明するのに借りただけじゃん」

「ちょっととかいっぱいとか、そういう問題じゃないって事くらい分かるだろ!馨がやってるのは立派な万引きだ」

「立派だなんてやだなぁもー」

「クマの手で頬を掻くな!」


結局、馨を引き摺って店まで引き返し、聡史まで一緒になって頭を下げる羽目になったのだった。

しかも悪気はなかったのだがついうっかり持って行ってしまう所だったのだと過失を申し訳なさそうに(しかも目に涙を浮かべて)馨が訴えれば、店員は何故か同情の余地ありと判断しお咎めは一切無かった。

全てが演技であり確信犯である事を知っているのは聡史と響のみ。



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